郵趣家によるレトロ郵便局の考察
本サイト「レトロ郵便局」は明治・大正・昭和の郵便局舎を1つのきっかけにしながら、主に三等郵便局が果たしてきた地域貢献、郵便局長の社会的地位、日本郵便史と郷土史の関連、文化財としての保存・活用の可能性などに関心を向けつつ、情報発信をしています。
こうした関心を持つ研究者として、古くは郵政出身の小池善次郎氏・高橋善七氏の名が挙がります。郵政博物館の学芸員や郵便史研究会の会員にも近い関心を持つ方もいますが、郵趣(Philately)にバックグランドを持ちながらレトロ郵便局に関心を持つ方は少ないようです。その点において、岩手県在住の郵趣家である荻田栄治氏編集の写真集『両磐・気仙の郵便局写真集』『花巻・北上地方の郵便局写真集』(2007年)の2冊は異彩を放つ存在といえます。
「郵便局の日常」を丹念に記録した写真集
荻田栄治氏編集の写真集『両磐・気仙の郵便局写真集』『花巻・北上地方の郵便局写真集』の2冊は、先述のとおり、郵趣家の荻田氏が岩手県の郵便局の移り変わりを郵便局舎の写真と消印で残してきた記録となっています。郵便局舎の写真と消印を切り口として編集した点において、本サイトにもっとも近い立場で行われた「先行研究」といえるのではないかと考えられます。
いずれも郷土郵便史の関心から出発した性格があり、採録局は岩手県内の一部に限定されます。荻田氏が郵便局を撮影し始めた昭和40年代以降に限定されますが、郵便局長を務めた家を訪問して過去の写真や資料、また文書なども借りつつ、局所ごとの歩みが可能なかぎり時系列的に読み解くことができるように配慮されています。
明治生まれの方々も含めて直接対話して信頼関係を築き上げたからこそできた写真集、平成の中盤・東日本大震災前だったからこそ散逸する前に残せた記録の数々といえるでしょう。なお、荻田氏は2004年に『郵便局よ ありがとう 胆江地方の郵便局写真集』を出版していますが、こちらは品切れとなっています。
大作『北上川に架かる橋』
その後、荻田氏が膨大な労力をかけて執筆したのが『北上川に架かる橋―盛岡・四十四田橋から石巻・新北上大橋まで』(2018年)です。渡船から橋へ変わると、郵便輸送の経路にも大きく影響します。交通史、郵便史、地域間の交流、地方自治、歴史的経緯など、さまざまな要素が複雑にからみ合っていたことが想像され、特有の面白さがあります。
本書はあくまで歴史書であり、「歴史小説」にみられるような感傷的な言葉はみられません。それにもかかわらず、どこかで荻田氏の地域の人々の暮らしへの優しいまなざし、橋の建設にあたっての関係者への敬意が感じられるように感じられ、本書を魅力的なものにしています。郵便そのものに対する記述は限定的ですが、岩手県・宮城県にまたがる地域史・交通史に関心をお持ちの方に併読書としてお薦めします。
書籍入手のお問い合わせ先
『両磐・気仙の郵便局写真集』、『花巻・北上地方の郵便局写真集』(2007年)、『北上川に架かる橋』(2018年)はヤフオクで発売中。詳細な在庫状況や価格(送料込み)については郵便でお問い合わせください。
〒023-1122 岩手県奥州市江刺館山1-3(荻田栄治様宛)
資料提供:荻田 栄治(おぎた・えいじ)
交通史研究者・郵趣家。1941年に岩手県江刺郡岩谷堂町(現 奥州市)に生まれる。日本郵趣協会県南支部(岩手県)結成に尽力し、支部長に就任。2004年から10年にわたり江刺市行政区長(岩谷堂3区)を務めた。主な著作に1980年『江刺の郵便誌』が処女作。近著に2018年『北上川に架かる橋』がある。