旧逓信省簡易保険局庁舎
逓信省技師の張 菅雄は、戦前の建築学体系とされる『高等建築学』(昭和8年、常磐書房)の第19巻にある「逓信省の建築」の執筆者であり、逓信建築を語る上でも重要な人物の1人です。
張が設計したことで知られるのが、綱町三井倶楽部の向かい側にあった旧逓信省簡易保険局庁舎(のちに東京地方簡易保険局・港区三田1-4-52)です。昭和4年に完成した庁舎で、設計は逓信省技師の張 菅雄が担当し、大林組が施工を行いました。郵政民営化後も、かんぽ生命の東京サービスセンターとして活用されていたことで知られます。
旧逓信省簡易保険局庁舎は外装・内装の装飾がとりわけ美しいことに加えて、張が寡作だったこともあり、専門家は逓信建築の中でも重要視していました。昭和初期の近代建築の遺構として保存を望む声もありましたが、最終的に再開発されることになりました。新しくできる大規模マンションには庁舎の素材を一部採り入れるようです。
簡易保険局構内郵便局の沿革
ちなみに旧逓信省簡易保険局庁舎には無集配普通局がありました。当時を知る方によると、簡易保険局内の郵便を取り扱うための区分棚もあり、書留を扱う特殊室も存在したということです。無集配普通局ではありましたが、実質的には集配普通局と同格の特殊な機能を持った郵便局でした。沿革は次のとおりです。
簡易保険局構内郵便局
昭和04.12.01 設置 二等無集局
昭和16.02.01 普通無集局に改定
昭和16.09.11「東京簡易保険支局内」と改称
昭和24.06.21「三田台」と改称
平成15.08.31 廃止 引継:高輪
「三等郵便局舎の面影」
張は長く『逓信協会雑誌』の編集委員も務め、昭和8年2月号に「三等郵便局舎の面影」を掲載しました。同誌に全国各地の三等郵便局の優良局舎を紹介していく趣旨の提案を行ったのです。すでに同誌では明治44年から大正3年にかけて優良な三等郵便局舎を60余り紹介したこともあり、その続編「優良局舎第二次紹介」として個々の局舎の外観や平面図、設計上の特色などに丁寧な批評を加えていく企画を行ったのでした。張が批評した優良局舎の多くはすでに失われましたが、旧野間郵便局舎(愛知)、旧五箇荘郵便局(滋賀)は現存しており、良好な状態が保たれています。
*一等局や二等局などの大規模な郵便局舎は本省や逓信局の技師が直接設計に関わっていましたが、三等局の設計は必要な要件をまとめた「局舎構造設備規定」に基づいて行われるのみで、直接的にかかわることがありませんでした。そのため、張は模範とすべき事例を集めて一覧化しようと考えたのではないかと思われます。採光や通気性、間取りの利便性などの観点からも深い考察がなされていることが垣間見られます。