レトロ郵便局と文化財の種類

レトロ郵便局と文化財登録制度

レトロ郵便局が注目されている背景としては、国指定登録有形文化財の制度が平成8年(1996年)に始まったことが挙げられます。完成から50年を経過した歴史的建造物のうち、一定の評価を得たものを文化財として登録し、 届出制という緩やかな規制を通じて保存が図られるようになり、明治・大正・昭和のレトロ郵便局舎の多くに本制度適用の可能性が出てきたのです。特にSNSの普及もあって名もなき逓信・郵政関係の遺構が注目を集めるようになったのもポイントでしょう。

ここでは、本サイトの中でレトロ郵便局舎を鑑賞していく上でも前提となりますので、改めて文化財による意味づけとその基本的な性格について紹介していきたいと思います。

重要文化財の郵便局舎

「郵便局舎」が国宝となっている例はありませんが、重要文化財に登録された例としては、宇治山田郵便局舎(愛知県犬山市)の1件があります。もとは三重県伊勢市にあった木造の郵便局舎を博物館明治村内に移築したもので、現存する日本最古(明治41年)の木造郵便局舎として、また貴重な明治の逓信建築の1つとしても知られます。昭和46年(1971年)には博物館明治村簡易郵便局が施設内に開局して、営業を続けています。

もっとも重要文化財(建造物)の中には、たとえば三浦館(秋田県秋田市)のように重要文化財の中にかつての郵便局舎(旧羽後黒川郵便局)が含まれている事例、内田佐七家(愛知県南知多町)のように建造物の一部に明治7年(1874年)開局の郵便取扱所が設置されたという事例も存在します。

重要文化財 宇治山田郵便局舎の中で営業中の博物館明治村簡易郵便局(愛知県犬山市)

都道府県・市町村指定等文化財の郵便局舎

文化財保護法における「有形文化財」の中には、都道府県・市町村指定等文化財もあります。これらについては地方公共団体が文化財保護条例を制定し、地域内に存在する文化財の指定等を行っていて、全国に約12,000の建造物が指定を受けています。また、地方公共団体が文化財の指定もしくはその解除を行った場合には,教育委員会は文化庁長官にその旨を報告しなければなりません。

加茂市指定文化財の旧七谷郵便局(新潟県加茂市)。美しい洋風建築の中でカフェが営業されていた。

国指定の登録有形文化財の郵便局舎

国指定登録有形文化財は平成8年10月1日に施行された文化財保護法の一部を改正する法律によって、保存及び活用についての措置が特に必要とされる文化財建造物を登録する「文化財登録制度」によるものです。文化財の指定制度を補完する性格のもので、従来の制度から洩れた文化財に緩やかな保護措置を講じています。令和4年1月1日時点で全国に13,276件の建造物が登録されており、そのうち旧郵便局舎は52件を確認しています。

*国指定ではありますが、都道府県・市町村指定等文化財に準ずるものが登録される傾向にあります。しかしながら、郵便史の文脈において重要性の高いものも数多く含まれます。

国指定の登録有形文化財となっている旧常陸北条郵便局舎(現在の筑波郵便局)

伝統的建造物群保存地区内の郵便局舎

文化財としての旧郵便局舎の中には、「伝統的建造物群」に含まれるものもあります。昭和50(1975)年の文化財保護法の改正によって伝統的建造物群保存地区の制度が発足し、城下町、宿場町、門前町など全国各地に残る歴史的な集落・町並みの保存が図られるようになりました。市町村は、伝統的建造物群保存地区を決定し、地区内の保存事業を計画的に進めるため,保存条例に基づき保存活用計画を定める。国はその中で価値が高いと判断したものを重要伝統的建造物群保存地区に選定しています。重要伝統的建造物群保存地区は、101市町村で123地区あり,約29,000件の伝統的建造物及び環境物件が特定され保護されています(令和2年時点)。

もっともよく知られている事例は、日本初の重要伝統的建造物群保存地区である中山道・妻籠宿の妻籠郵便局(長野県南木曽町)でしょう。同局は島崎藤村の『夜明け前』に登場する郵便局として知られ、現局舎内には昭和60(1985)年開設の「郵便史料館」があり、現局舎の向かいには大正3(1914)年から使用された旧郵便局舎(先代局舎)がよい状態で残されています。

妻篭郵便局に併設された郵便史料館(長野県南木曽町)

その他の文化財に属する郵便局舎

特に公的な文化財としての登録をせずに、所有者や地元の有志の力で保存・活用されている例もあります。滋賀県近江八幡市にある旧八幡郵便局舎はその典型で、大正10年にしゅん工して昭和35年まで郵便局舎として使用された建物を復元し、NPO法人ヴォーリズ建築保存再生運動 一粒の会が一般向けに見学の機会を提供しています。

滋賀県内に点在するヴォーリズ建築の中で、予約なしに無料で内覧できるものは少なく、町のランドマークとして、また魅力的な観光資源として文化財としての価値が存分に活用されています。(一粒の会@ヴォーリズ建築・旧八幡郵便局Twitterアカウント)

日本最初期のスパニッシュ様式を採用したヴォーリズ建築 旧八幡郵便局舎(大正10年・滋賀

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