米子角盤町郵便局ができた頃は中海でタツノオトシゴを
「この局舎ができた頃は中海もきれいで、漁船も多く出ていました。タツノオトシゴを手ですくったこともあるんですよ」という90歳を超えた角盤文庫の店主がいました。本サイトの管理人がこれまで行ってきたレトロ郵便局の旅の中でもとりわけ印象に残る出会いでした。
鳥取県米子市の旧米子角盤町郵便局舎は、昭和11年(1936年)4月16日に建設され、木造二階建ての洋風建築として町の中心に建ちました。当時、目の前には農協や銀行が立ち並び、米子の下町にある賑やかな通りを見守るかのように存在していました。
その後、月日の流れとともに郵便局舎としての役割を昭和59年(1984年)2月6日に終え、米子角盤町郵便局は米子高島屋(現在のJU米子タカシマヤ)の1階へと移転しています。
残された旧米子角盤町郵便局舎は平成元年(1989年)に「角盤文庫」という本屋さんに生まれ変わり、多くの市民に親しまれ続けてきましたが、ついに平成25年(2013年)の夏に解体されることが決まったのです。そして解体まであと2日という日に特定非営利活動法人(NPO法人)夢蔵プロジェクトがこの建物の保存・修復に名乗りを上げ、所有者と地権者に交渉し、建物の無償譲渡を受けることに成功しています。
それから平成27(2015)年夏には「旧角盤郵便局保存・再生プロジェクト」として、地元の企業のほか、国立米子工業高等専門学校の協力などで行われました。局舎の一部解体も含む大がかりな工事で、さまざまな生活用品なども含めて2トン車6台分の廃棄が出たということです。
角盤文庫の店主は、「業者が解体の話をしている最中に神様のような方に救われた」と当時を振り返り、再び本屋として営業を続けられることに感謝の意を表していました。その後、角盤文庫としては令和の初め頃に閉店し、再び静かにその役目を終えました。
「YORAIYA角盤」として再生第2フェーズ
もともと夢蔵プロジェクトの活動は、2000年の鳥取県西部地震で被害を受けた米子下町・加茂川沿いの白壁土蔵群の一つを保存再生することから始まり、米子下町のまちづくり活動やさまざまなイベント開催に発展し、現在では米子城跡の草取り、ライトアップ、下町イベントの開催などへと活動を広げています。
旧米子角盤町郵便局(旧角盤文庫)の譲渡を受けた夢蔵プロジェクトは、局舎の外観・形態を新築当時のままに復元し、当時の塗装色である淡いミントグリーンを再現しました。さらに家上げ、基礎、外壁、屋根、内装の全てを行い、これからも安全に利用できるようにします。
令和5年(2023年)10月開始の改修を終えた旧角盤町郵便局舎は「YORAIYA角盤」として再オープンしています。旧局舎にかかる約2000万円の事業費の一部は、クラウドファンディングで資金を集めました。
正式な開店に先立ち、支援者・関係者を対象としたオープン見学会を行ったのは、郵政記念日と同じ令和6年(2024年)4月20日でした。地元マスコミの報道によると25名の方が参加しました。
1階部分はテーブルや椅子を備えたカフェスペースとして、2階部分は和室のレンタルスペースや貸事務所として整備され、地域のイベントやチャレンジショップ風のカフェ、展示、販売スペースとしても活用されています。
夢蔵プロジェクトによると、旧米子角盤郵便局舎が長いあいだ「角盤文庫」として下町のシンボルとして米子市民に親しまれてきたことを受け、地域の交流活動拠点に生まれ変わらせることを目指しています。また、このプロジェクトは、郊外の大型チェーン店や量販店の進出により地元の商店が閉店し、空き店舗が急増するようになったという角盤町の地域課題を解決することも念頭に置くものであるともいいます。愛される地域の拠点としての「YORAIYA角盤」のこれからが期待されます。
旧米子角盤町郵便局のアクセス
所在地
〒683-0812
鳥取県米子市角盤町3丁目82 「YORAIYA角盤」
アクセス
JR西日本境線「後藤駅」から徒歩約9分
JR西日本境線「富士見町駅」から徒歩約9分
米子角盤町郵便局の基本情報
現在の米子角盤郵便局はJU米子高島屋の1階で営業しています。旧局舎から徒歩6分ほどのところです。
所在地
〒683-0812
鳥取県米子市角盤町1-34
米子角盤町郵便局の沿革
昭和11.04.16 設置 三等無集局
昭和16.02.01 特定無集局に改定
*沿革は『日本郵便局名鑑 』森 寿博 編著/武田 聡 追補/鳴美、2021年より。