大分県の離島に明治・昭和の局舎が現存|旧姫島郵便局

旧姫島郵便局の概要

大分県姫島村は大分県唯一の一島一村の村で、国東市伊東港から村営フェリーで20分ほどの場所です。大分市街からは離れていますが、大分空港から車で40分ほどでアクセスできるため、比較的に便利のよい離島となっています。産業はかつて塩田、牧畜(姫島牛)がさかんでしたが、現在はクルマエビ養殖が主力であり、近年ではITエンジニアのリモートワークを誘致しています。のどかな離島に高速ネット環境を整備し、コワーキングスペースを提供するなどしていることもあり、島内には若い家族連れの姿もみられます。

この島で庄屋を務めた古庄(こしょう)家住宅には、明治と昭和の旧郵便局舎が現存しています。古庄家は1196年に鎌倉から豊後に入国した有力御家人・大友能直に仕えた古庄四郎重吉を祖とする歴史ある家です。同住宅はおおいた姫島ジオパークの展示物の1つをなす歴史的建造物でもありますが、姫島に甘藷を導入した古庄拙翁(7代)、天保13年(1842年)に古庄家住宅を完成させた古庄逸翁(11代)の功績の影に隠れてしまい、郵便局舎だったことはあまり注目されていません。しかしながら旧局長家住宅・20世紀初頭の旧局舎・昭和の擬西洋風建築の旧局舎が一体的に残されている例は全国的にも少なく貴重な存在といえます。

旧姫島郵便局

姫島郵便局開設と明治の旧局舎

沿革を細かく見ていくことにしたいと思います。姫島郵便局は地元の村誌をみると、明治12年4月16日の開設となっています(5月とする資料あり)。初代局長は中條石太郎という人物で、魚付森として矢筈岳の森林を育成した功績のある人物で、初代局舎は当時の「はぐろ屋」(現在も島の食料品・雑貨店として営業中)の一部を利用しました。中條石太郎は明治33年7月25日、数え年54歳で死去しています。詳細は分かりませんが、「官中死亡ニツキ、手当トシテ金百圓ヲ給与ス 逓信省」とあることから、おそらくは在職中の事故ではないかと想像されます。

続いて、明治33年8月21日に2代目局長に就任したのが、庄屋を務めてきた古庄家の古庄小太郎でした。当初、姫島村957番地の古庄家邸宅内で行いましたが、明治37年(古庄家記録による。明治38年とする資料あり)には敷地内西側に局舎を新設しました。これが現存する明治の旧局舎にあたります。局舎入口には、馬蹄形にくり抜かれた当時の郵便窓口跡が今も残されています。

旧姫島郵便局

旧姫島郵便局の表示

旧姫島郵便局

旧姫島郵便局の窓口跡

昭和のレトロ郵便局舎とその後

2代目局長の古庄小太郎が退職したのは、昭和8年7月18日のことでした。翌日に古庄才二郎が3代目局長に就任しました。昭和の局舎は昭和13年、3代目局長によって古庄家住宅の東側に新築したものです。入口には「〒マーク」が配され、屋根を縁取りするギザギザの模様は切手の目打を思わせるものとなっています。

昭和のレトロ郵便局舎は3代目局長が退職した昭和51年6月30日以降も供用され、昭和56年2月に現在の県道沿いの位置に移転するまで現役局舎として存続しました。昭和のレトロ郵便局舎が局所としての役割を終えたのちは、しばらく繊維関連の工場として使用されたことがありますが、外国製品に押されたようで長く続きませんでした。

旧姫島郵便局の昭和レトロ局舎

昭和13年にできた旧姫島郵便局舎

姫島庄屋古庄家の入口

姫島庄屋古庄家の入口。奥のほうにかつて姫島郵便局で使用していた丸形ポストがみえる。

竹田津港から伊美港へ

明治時代から大正時代前半にかけての姫島郵便局がどのように郵便逓送を行っていたか、あまりよく分かっていません。姫島と国東半島とのあいだを行き来した渡海船か便船などによるもので、おそらくは不定期なものだったと想像されます。

姫島郵便局の電報取扱開始は明治44年のことです。海底電線が敷設され、対岸との短時間でのやりとりが可能になりました。正式な郵便船が開始されたのは、竹田津郵便局の記録によると、大正8年4月1日です。姫島と竹田津のあいだを逓信省に委託された2隻の郵便船が1日2回定期的に運航され、日曜日と祝日は休航したと伝えられます。大正13年1月1日からは村営姫島丸が就航しましたが、大正12年中に試運航があったと推測され、この切替時期に郵便船から姫島丸への交代が行われたと考えらます。また、初代の姫島丸の船長を務めた大海忠三郎(忠兵衛)は複数いた郵便船の船長の1人でもありました。

郵便船就航前の例(大正5年)

今日のように姫島と距離の近い伊美港ではなく、竹田津港だったのは、当時の伊美が船が着岸できるように整備されていなかったことによります。郵便物が伊美港経由になったのは村営姫島丸が伊美港に移った戦後の昭和21年7月26日のことです。郵趣家であれば、大正8年4月より前の使用例、大正8年4月から大正12年末までの使用例、大正13年1月以降の使用例、そして昭和21年7月下旬以降の例と、あれこれ並べたくなるのが人情というものでしょう。姫島発信の郵便物は100円均一のカバーからもごくまれに出てくるとの情報もあるので、のんびり構えてみたいと思います。

参考サイト:
姫島役所宛封書に押された豊後/姫島のKG印到着印(津田沼徒然草)
豊後の姫島と姫嶋(津田沼徒然草)

伊美港に着岸する村営フェリーの第一姫島丸

伊美港に着岸する村営フェリーの第一姫島丸

旧姫島郵便局(姫島庄屋古庄家)のアクセス

所在地
〒872-1501
大分県東国東郡姫島村957-2

アクセス
「伊美港」から姫島村営フェリーで20分、姫島港下船して徒歩9分

古庄家の鬼瓦

古庄家の鬼瓦

姫島郵便局の基本情報

姫島郵便局は旧局舎から徒歩5分ほどのところにあります。

所在地
〒872-1501
大分県東国東郡姫島村14727

姫島郵便局の沿革
明治12.06.- 設置 五等郵便局
明治19.04.26 三等郵便局に改定
昭和16.02.01 特定郵便局に改定
平成19.02.19 集配廃止  引継:国見
書留引受局記号:7528A
為替番号:72029

沿革は『日本郵便局名鑑 』森 寿博 編著/武田 聡 追補/鳴美、2021年より。

県道沿いにある現在の姫島郵便局

県道沿いにある現在の姫島郵便局

姫島村の諸相

姫島村を訪れる際は旧郵便局舎の見学だけではもったいないです。それ以外にも魅力的な「もの・こと」がたくさんあります。最後にその一部をご紹介したいと思います。

姫島神社と楠社

姫島神社と楠社。姫島はキツネ踊りが有名である。

姫島のアサギマダラ

姫島のアサギマダラ。5月上旬から姫島のみつけ海岸のスナビキソウの蜜をもとめて南から渡来する。

参考文献
木野村孝一、『姫島の歴史~ロマンあふれる島への誘い~』、プランニング大分、2011年。
高橋与一、『姫島 その文化と歴史(改定増補)』、大分合同新聞社、1989年。
姫島村史編纂委員会編、『姫島村史』、同発行、1986年。

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