郵便創業期の遺構の貴重な現存例―松本家住宅|旧茗荷郵便局

旧茗荷郵便局の概要

奈良・茗荷(みょうが)郵便局は明治5年6月1日開局(『局所原簿』)の茗荷郵便取扱所を起源とし、明治8年1月1日に五等郵便局に改定されました。明治19年4月16日に三等郵便局となってからは典型的な地方の集配三等局・集配特定局として歩み、令和に入ってもなお集配業務を継続している局でもあります。この点だけでも興味深いところですが、やはり特筆すべきは明治の郵便創業期の郵便局舎が奈良市指定文化財「松本家住宅」(奈良市茗荷町)として非常に良好な状態で維持・管理されていることでしょう。

旧茗荷郵便局

奈良市指定文化財「松本家住宅」(奈良市茗荷町)として知られる初代茗荷郵便局舎

「松本家住宅」は文久3年の建築の庄屋屋敷となっています。もともと松本家は藤堂家に仕えた家で、苗字と帯刀が許されていました。開局時点の郵便取扱人(初代郵便局長)は松本甚内という方でした。周辺の郵便局長は戦後に公職追放になった例も多かったようですが、松本家は直系で5代続きました。5代の松本陽一氏が退職後もご自身が少年時代を過ごした「松本家住宅」を大切に管理されています。とりわけ入口部分のアーチを描く庇部分、そして玄関左側にある馬蹄形の窓口跡は良好な状態で保存されており、明治創業期の郵便局遺構として重要です。(令和2年11月時点)

旧茗荷郵便局の窓口

旧茗荷郵便局の窓口跡は明治創業期の郵便遺構としてきわめて重要。

旧茗荷郵便局の詳細情報

明治22年4月1日に町村制が施行されると、添上郡(そえかみ)茗荷村は田原村の一部となりました。昭和32年9月1日に奈良市に編入され、今日にいたります。そのため、「旧田原村の茗荷」といった言い方がされる場合もあります。周囲はとても美しい里山が広がり、のどかな田園風景が楽しめる場所となっています。

茗荷郵便局の沿革には不明な部分もありますが、『局所原簿』を引くと、昭和7年10月1日に電話交換業務を開始したとあります。このときには現在の松本家住宅と同じ敷地内の別棟に郵便局としての機能を移していたのではないかと推察されます。かつて郵便物は奈良交通の路線バスに搭載しており、近くの停留場からリアカーに乗せて運んでいたそうです。しかし当時の局舎までは坂になっている部分もあり、相当な重労働だったことでしょう。こうした経緯もあって昭和32年12月16日(『局所原簿』)には県道に面した場所に移転しました。

*ここでは『局所原簿』の日付を典拠としましたが、その他の文献との日付相違、誤記が見つかりますので、正確な日付についてはなお検討を要します。

昭和32年から使用された先代の茗荷郵便局舎。現在の郵便局舎のはす向かいに所在する。

昭和32年から使用された先代の茗荷郵便局舎。現在の郵便局舎のはす向かいに所在する。

旧茗荷郵便局(松本家住宅)のアクセス

奈良市中心部から車で約20分ほど、奈良名張線(県道80号)を東進した場所にあります。

所在地
〒630-2175
奈良県奈良市茗荷町1181

アクセス
JR・近鉄「奈良駅」から「下水間」行き、または「北野」行きバスで「茗荷」バス停下車、徒歩3分

旧茗荷郵便局

昭和時代に茗荷郵便局舎としての役割を果たした松本家住宅敷地内の別棟

茗荷郵便局の基本情報

現在の郵便局舎は県道80号沿いにあります。奈良・茗荷郵便局で令和2年10月23日から、松本家住宅にある馬蹄形の郵便窓口を図案化した風景印を使用しています。かつての逓信関連の施設を風景印の図案とした珍しい事例といえるでしょう。

所在地
〒630-2199
奈良県奈良市茗荷町1046

茗荷郵便局の沿革
明治05.-.- 設置 郵便取扱所
明治08.01.01 五等郵便局に改定
明治19.04.26 三等郵便局に改定
昭和16.02.01 特定郵便局に改定
書留引受局記号:5106
為替番号:45057

上記の沿革は『日本郵便局名鑑 』森 寿博 編著/武田 聡 追補/鳴美、2021年より。

茗荷郵便局の近くにある丸形ポスト

茗荷郵便局の近くにある丸形ポスト。白いペンキで味わいのある文字で取集時刻等が記されている。

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