日本におけるカシェ入りの初日カバーの草分け|米国人カール・ルイス(Karl Lewis)

日本切手にみるカシェ入り初日カバーの始まり

切手収集を楽しむ方々にとって、新しい切手が発行されるたびにその切手に初日の消印を押して記録するという習慣は、まるで切手の誕生をお祝いする儀式のようなものです。この特別な日に発行された切手を、関連する美しいイラストが描かれた封筒に添えて作られる「カシェ入り初日カバー」は、長年にわたり切手収集家たちの心を捉えてきました。日本において、このようなカシェ入り初日カバーが郵趣団体や組織によって作成され、頒布されるようになったのは、昭和14年(1939年)に日本郵便切手会が最初の一歩を踏み出したことから始まります。現在では、日本郵趣協会や鳴美などがその役割を担っています。

カール・ルイスが活動した7年

郵趣の世界におけるカシェ入り初日カバーの草分けとして、カール・ルイスの名前は特別な意味を持ちます。彼は、アメリカのケンタッキー州で生まれ、船員や写真家としての仕事を経て、明治34年(1901年)に日本の地を踏みました。日本で新たな人生をスタートさせた彼は、写真館を経営するかたわら、商社マンや切手商としても活動しました。

カール・ルイス

カール・ルイス

切手商でもあったカール・ルイスがアメリカ人郵趣家の照会に応えた昭和9年の通信文。クリエイター気質のルイスらしい筆遣いが感じられる。(図版協力:大高正志氏)

カール・ルイスが制作し、頒布したエキゾチックなイラスト入りのカシェ入り初日カバーは、瞬く間に人気を集めました。これら「ルイスカバー」と呼ばれる作品群には、初日カバーだけでなく、風景印や船内印などを使用したカバーも含まれており、特に1934年(昭和9年)に発行された赤十字国際会議記念切手のカバーは、その始まりとされています。カール・ルイスが制作したカバーの美しさは、彼が肉筆で描いたイラストによるものであり、その期間はわずか7年間に過ぎませんでしたが、彼の作品は後世に大きな影響を与えました。戦後、切手の原画制作者や美術家たちによって肉筆のイラスト入り初日カバーの制作が引き継がれることとなり、これらは郵趣の世界において特別な位置を占めるようになりました。

しかし、カール・ルイスの郵趣活動は、南洋の風景印を押した「南洋風景カシェ」の制作がきっかけでスパイ容疑をかけられ、警察に逮捕されるという突然の終わりを迎えます。それは昭和16年(1941年)のことでした。彼の人生の幕を閉じたのは、その翌年、昭和17年(1942年)5月19日、横浜の自宅でのことでした。享年77歳。彼の墓所は横浜の真光寺にあります。

カシェ入りの初日カバーとは

郵趣界で重要な意味を持つマテリアルの1つです。この初日カバーは、新しい切手が発行されたその初日に、その切手を封筒に貼り、その切手に対応する特別な消印を押すことで作成されます。この消印は、切手の発行日を明確に記録し、その日付が切手の初日であることを証明します。さらに「カシェ」とは、封筒の表面に描かれた特別なデザインや図案のことを指し、その切手や消印と関連するテーマやイベントを表現しています。カシェは、美術的な要素を加えることで初日カバーの魅力を高め、収集価値をさらに増大させます。カシェのデザインは多岐にわたり、記念されるイベントや切手のテーマに合わせて、風景、歴史的人物、動植物、宇宙、文化遺産など、様々な題材が用いられます。

切手原画作者・渡辺三郎氏によるカシェ

切手原画作者・渡辺三郎氏によるカシェ入りの初日カバー「逓信総合博物館竣工記念」

郵趣家たちは、新しい切手が発行されるたびに、このような初日カバーを作成することで、切手収集の楽しみをさらに深めています。カシェ入り初日カバーは、単に切手を集めるだけでなく、その切手が発行された背景や文化的な意味合いを理解し、記録することも目的としています。そのため、初日カバーは単なる収集品としてだけでなく、郵便史やその時代の社会的・文化的背景を伝える貴重な資料としても評価されています。

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